近所の本屋さんで
こちらも、(かがみの孤城と同様に)近くの本屋さんでたくさん並んでいて気になっていた本。表紙がインパクトあって、記憶にこびりつく感じ・・・。
私が読了した後、おなじ本屋に立ち寄った際、女性従業員のお二人が、本棚整理をしながらの会話。
「このさ、”傲慢と偏見”読んだ?」
「読んでないわぁ。どやった?」
「うーん、なんでいうかな。とにかく読んで損はないわぁ」
うんうん、確かに。この従業員の方、この本も本全体のことも好きなんだろうな、という気持ちが伝わってくる。作者を尊重する感じ。本屋の店員さんらしく、ストーリーはばらさない。感想も控え目で好感度高い。
私もそんな風に思った。確かにこの本は読んで損はない、いやむしろ読み応えありすぎ、と。
恋愛ミステリー?? 適齢期過ぎの男女の婚活が題材
小説は不穏ではらはらする始まり方だったので、これは恋愛ミステリーなのだなと思いながら読んだが、ミステリー感よりむしろ内面描写が多かった。
読むのがつらくなるくらい内面をえぐった表現がずっと続き、苦しい。でもなぜか先を読みたくて読むのをやめられない。そんな中毒性のあるストーリーだった。
20代じゃなく、30代のちょっと適齢期を過ぎてしまった男女の婚活のお話。男はもてて恋愛が不得意ではなく、結婚に関してはまだだ、いまじゃない、もう少しゆっくりしてからでいいと高をくくって生きてきた。気が付いたら30を超えていて、男としての結婚の最高条件からはピークアウトして初めて結婚を焦り相手を探す。
女は、田舎で従順に育った姉妹の妹。母親のいうことに沿って生きてきて、結婚に有利ということで地元の女子高に進学、役所にお勤め、そして親の勧めでお見合いもした。でも、理想の相手は見つからなかった。
どこにでもありそうな、話だと思うでしょ。でも、ちがう。そこが辻村深月さんのうまいところ。先が気になってやめられないのだ。
男側の相手への評価
ここに出てくる男女カップルは、ある手段で出会い、結婚することになっていた。
この時の相手に対する評価がかなり赤裸々でそして目を覆いたくなる感じなのだ。
特に男側の視点が、なんともやるせない。もうすぐ結婚する相手を「70点」と評価し女友達に伝える。もし、本人が聞いたらどう感じるか?そういう視点がないというか、のほほんと恋愛には苦労せずに生きてきた男のぶしつけな評価。それは本心だからこそ、辛辣すぎて胸に突き刺さった。女側として。
女は、ちょっとした田舎者の自分にはもったいないほどの男性だったはずだから、なおさら、見てられないほど男の評価はつらい。
男の女友達の視点
冒頭の不穏な始まりに関連する、男の「女友達」。男と同じで、都会的で恋愛に関しても豊富。人間関係の酸いも甘いもかなり吸い尽くし、海千山千の彼女たち。いきていくスキルはかなりのもの。男の彼女に比べたら、ねんねではなくかなりうまく世を渡っていけそうだと断言する。
男の彼女は、一世一代で打った演技をこの女友達らに見抜かれ、さらに辛辣でド直球な指摘をされたことで姿をくらます。
いくら男側の女友達でも、こんなこと直接いう?って程、意地悪でどうしようもないと思った。うっわーとため息が出た。がしかし私は正直、彼女とこの女友達たちのどちらの味方につけばいいのか、わからなくなった。
それは、どちらかというと、この女友達の方がむしろ理解できるからだ。
決定的なのは、どんなに結婚に不利な状況になったとしても、冒頭の彼女が大見得を切った演技をすることは私にはないだろうと思うからだ。
彼女の嘘、そして開く未来
冒頭の彼女の演技は、この小説の核となるできことだ。それにより、男の行動、彼女の行動がかわり、そして未来が変わるからだ。
そして、いろぶいろあっても重要なのは、周りがどう思うかではなく、自分はどう思い行動するか?これから結婚しようとする2人の関係は2人のもので、周りのものではない。二人がどう思うかだ。
何をみて、何を見ないか。何を自分や二人の関係性の中に取り入れるかは、当事者が決めることだ。決して外野である周りは関係ない。
ずっとくらいトンネルを歩くような気分になるこの小説は、読んでいて苦しい。苦しいけどやめられない。ただしこの暗いどうしようもないダークな感情に向き合い、最後にたどり着いた先は、ここを潜り抜けなければ見えない景色だ。
一世一代の大芝居は、人生で一度は打つべきなのかもしれない。この境地に至らせてくれた辻村深月さんのダークな内面に向き合う力には脱帽だ。ちょっと殻をやぶってみようか、という気にさせてくれる。
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